「最近、愛犬の尿量が増えたな…」「よく水を飲んでいる気がする…」
という場合には、腎臓病になっている可能性もあります。
犬の腎臓病は、早期に治療を始めないと、命にかかわることもある怖い病気です。
この記事では、犬の腎臓病について、原因や症状、検査内容や予後などについてお伝えしています。
愛犬の腎臓病について、疑問や不安がある飼い主さんは、ぜひ読んでみてくださいね。
犬の腎臓病の原因とは?
犬の腎臓病には、急性腎障害や慢性腎臓病、蛋白喪失性腎症、腎盂腎炎、腎結石…などとさまざまあります。
そのなかでもよく見られる疾患が、急性腎障害と慢性腎臓病です。
これらは全く違った病態であり、治療法も大きく異なります。
また、慢性腎臓病は高齢期に患うことが多い一方で、急性腎障害はどの年齢でもかかる可能性があります。
以下では、急性腎障害と慢性腎臓病について、原因や病態を分けてお伝えしていきます。
急性腎障害の原因
急性腎障害とは、腎臓に急激な(数時間~数日の間に)負担がかかることで、腎機能が低下する病気です。
原因としては、
腎前性(脱水などによる腎血流量の減少)
腎性(腎実質の障害)
腎後性(尿管~尿道までの閉塞)
に大きく分類されますが、これらが併発していることもしばしばあります。
一般的に、犬では、腎性が約60%と多く、原因が特定できなかったものが約30%、腎前性が約10%であるとの報告があります。
猫では腎後性(尿道閉塞)が約30%と高い割合を占めるため、犬と猫では、原因・病態の違いがあります。
また、腎性の原因としては、毒物や薬物(レーズンやグレープ、エチレングリコール、NSAIDsなど)が約45%、感染(レプトスピラ症など)が約45%、免疫介在性が15%との報告もあります。
慢性腎臓病の原因
犬の慢性腎臓病とは、腎臓の構造と機能の異常が長期間続いた状態のことです。
犬における原因としては、
免疫複合体性糸球体腎炎
非免疫複合体性糸球体腎症
腎アミロイドーシス
尿細管間質障害
などが多く、同じ慢性腎臓病であっても兆候や進行の程度がさまざまあります。
犬の腎臓病で見られる症状
犬の腎臓病で見られる症状は、
飲水量の増加
尿が出ない、少ない
多尿
震え
嘔吐
食欲不振
元気消失
体重減少
削痩
…など、病態により異なり、多岐にわたります。
一般的に、急性腎障害の場合には、元気や食欲がない、下痢や嘔吐、尿が出ない…といった症状が急激に発症することが多いです。
一方、慢性腎臓病の場合には、長期にわたって飲水量の増加や食欲の低下、体重減少などが見られます。
犬の腎臓病で行われる検査・診断方法
犬の腎臓病を診断するためには、飼い主さんからの稟告、すなわち、
元気や食欲はどうなのか?
水を飲む量は増えた?減った?
おしっこの量
体重の増減
口臭の有無
基礎疾患の有無
…などが重要です。
あわせて、脱水の程度や顔つき、被毛の状態や臨床経過などもみていきます。
また、血液検査や画像検査(レントゲン検査やエコー検査)、尿検査や血圧測定も重要な検査です。
これらを行い、『急性腎障害なのか?』『慢性腎臓病なのか?』『それ以外の病気・病態なのか(併発しているのか)?』の診断をしていくことが大切です。
犬の腎臓病の治療法
犬の腎臓病は、急性腎障害か慢性腎臓病かによって大きく異なります。
以下で分けてお伝えしますね。
急性腎障害の治療法
急性腎障害の場合には、腎性・腎前性・腎後性の区別をつけることが大切です。
すなわち、尿路閉塞がある場合にはその解除をしなければ改善しないですし、脱水がある場合には、まずは十分な補液を行います。
尿が出る状態であれば輸液療法が有用ですね。
リンゲル液などを用い、脱水補正と電解質異常を是正し、血圧および腎血流を維持により、さらなる障害を防ぐように対応します。
脱水が改善されたのにもかかわらず尿が出ない(もしくは補液に見合った尿量が確認できない)状態のときには、利尿剤の投与や血液透析を行います。
ただし、血液透析ができる施設は限られており、一般的には、複数の利尿剤を併用しながら治療にあたります。
慢性腎臓病の治療法
慢性腎臓病の場合には、IRIS(International Renal Interest Society)の推奨するステージ分類、およびサブステージ分類を行います。
※IRISとは、小動物の腎臓病に対する科学的理解を深めることを目的に設立された国際獣医腎臓病研究グループ(International Renal Interest Society)の頭文字をとったものです。
この分類は治療方針の決定とあわせて、飼い主さんが病態進行のリスクを理解することを可能にします。
ステージ クレアチニン(mg/dL) SDMA(μg/dL) 残存腎機能
1 <1.4 <18 >33%
2 1.4-2.8 18-35 33-25%
3 2.9-5.0 36-54 25-10%
4 >5.0 >54 <10%
サブステージとして、
UPC比(非タンパク尿<0.2、境界的なタンパク尿0.2-0.5、タンパク尿>0.5)
収縮期血圧(正常圧<140mmHg、前高血圧140-159mmHg、高血圧160-179mmHg、重度の高血圧≧180)
を合わせて評価していきます。
ステージ1~2の場合には、基礎疾患及び進行リスクの鑑別と治療に注力します。
ステージ3の場合には、上記とともに、対症療法も積極的に行います。
ステージ4の場合には、QOLの維持を目標とします。
いかなるステージであっても個々の状態・症状の改善に努め、また、慢性腎臓病だからと言って、漫然な補液処置を行わないようにすることも大切です。
食事管理
ステージ2以上の場合には、腎臓病の療法食を用います。
ウェットフードは嗜好性もよく、十分な水分摂取が可能となるため、好んで食す場合には使用することが賢明です。
ただ、基礎疾患がある場合には、そちらの療法食を主軸とすることもあり、何を選択するかは、主治医の先生と相談にて決定するようになります。
定期健診
慢性腎臓病の場合には、定期検診が重要です。
すなわち、上記検査内容を、ステージ1では3~6カ月ごと、ステージ2では2~3カ月ごと、ステージ3では1~2カ月ごとの検診が推奨されます。
もちろん、状態がよくないとき、またいつもと違った症状が出る場合になどは、随時受診が必要です。
高血圧の治療
犬の慢性腎臓病では、血圧管理も重要です。
収縮気圧が2週間以上180mmHgを超える症例については、降圧治療が必要です。
その他の治療
基礎疾患や併発疾患がある場合には、その治療も重要です。
犬では、心疾患や膵炎が併発していることが多く、これらのケアも並行して行います。
また、歯肉炎も進行リスクとなることから、口腔衛生管理や歯科処置を行うケースもあります。
タンパク尿の治療や高血圧、高リン血症や貧血の治療なども同時に行います。
吐き気が強い場合には制吐剤を、食事がとれないときには、強制給餌や栄養点滴管理も考慮に入れます。
犬の腎臓病の予後
犬の腎臓病の予後は、腎障害の原因により異なります。
急性腎障害の全体の死亡率は約50%との報告があり、感染や結石による尿路閉塞では20~30%程度と低く、エチレングリコールなどの毒物や薬物が原因のときには、80~90%程度と高くなっています。
慢性腎臓病おいては、糸球体疾患がある場合には進行が速く、また心疾患や膵炎がある場合には、維持管理が難しい状況が多いです。
【まとめ】犬の腎臓病の原因や症状、治療法について
犬の腎臓疾患では、急性腎障害と慢性腎臓病がよく見られます。
今生じている症状が、どちらの病態なのかを把握することはとても重要であり、それにより治療法や予後も異なります。
日頃から愛犬の様子をよく観察し、異常を発見した際には、すぐに動物病院を受診するようにしましょう!
参考資料
日本獣医腎泌尿器学会 犬と猫の慢性腎臓病の治療
辻本元,小山秀一,大草潔,中村篤史,犬の治療ガイド2020,EDUWARD Press,p17-p19,p426-p429