『愛犬のおもらしなどの粗相が増えた…』『夜鳴きが多くなった…』という場合には、認知症になっている可能性があります。 認知症の場合には、どういったケアが必要なのか?治る病気なのか?不安ですよね… この記事では、犬の認知症について、
どんな症状が出るのか?
余命はどれくらいなのか?
予防法はあるのか?
などについてお伝えしています。 認知症の愛犬の介護は、人のお世話と同じように、大変であることが多いです。 愛犬の認知症にしっかり向き合い、後悔のないケアをしていきたい!という飼い主さんは、ぜひ読んでみてくださいね。
犬の認知症とは?原因について
犬の認知症は、正確には、『認知機能不全症候群(高齢性認知機能不全)』と呼ばれる病気です。 高齢期に認知機能が緩やかに低下していき、結果として、複数の特徴的な行動障害を呈するようになる症候群を言います。 原因や病態はいまだ解明されておらず、疾患の特異的な変化は現在のところ見つかってないことが実際です。 (※以下では、認知機能不全症候群(高齢性認知機能不全)を『認知症』と表記しています。)
犬の認知症の症状とは?
犬の認知症でよく見られる症状としては、
吠えるようになる、夜鳴き
寝なくなる
動きが悪くなる
夜間に活動的になる
ウロウロする、徘徊
家の中で迷子になる
部屋の角で動けなくなる
飼い主さんに無関心になる
粗相をする
…などと、個々の犬により、さまざまな症状を示します。 また、視覚などの感覚機能が低下したり、ふらつきや転倒、頭部の下垂や振戦といった歩行異常や姿勢の異常を併発することも多いです。 ただ、上記でお伝えした症状は、からだに何かしらのトラブルを抱えていて生じていることもあります。 例えば、粗相が増えたのは膀胱炎や尿路結石、腫瘍がある可能性もあります。 クッシング症候群や甲状腺機能低下症といった内分泌疾患、腎臓疾患などがあり、多尿や高血圧が見られることも多いですね。 さらに、
脳浮腫や脳血管障害などの脳の器質的な異常
てんかん
関節炎や皮膚炎、歯周病といった痛みやかゆみなどの不快感を示す疾患
分離不安
情動障害
…などといったことも考えられます。 そのため、これらの鑑別をすることが、認知症の診断に際して、とても重要となります。 飼い主さんの稟告とあわせて、血液検査やレントゲン検査、エコー検査などを併用して診断していきます。
犬の認知症の余命は?
現在のところ、犬の認知症の根治は不可能であり、症状は緩やかに進行していきます。 発症時点からの余命はおおむね半年から1年程度であり、ながくて2年となっています。 もちろん、高齢ゆえ併発疾患があることも多く、それらの影響によるところもあります。
犬の認知症の治療法
犬の認知症の治療目標は、症状を緩和して、犬と飼い主さんの両方の生活の質(QOL)をあげることとなります。 犬の認知症の治療法としては、大きく分けて以下の4つの方法があります。
①環境面のケア
部屋の中で迷ってしまう、行き詰ってしまう場合などは、部屋を区切ることでの行動制限や、円形サークルを用いるなどして対応してあげましょう。 ぶつかっても痛くないように、障害物の除去や角がないようにしてあげることも大切ですね。 また、食事や飲水場、トイレや寝るスペースなどはある程度近くにまとめてあげて、大きな移動をしなくても過ごせるようしてあげることもいいですね。 滑ってしまうことも多いため、床を滑らない素材にする、滑り止めのついている靴下を履かせる・爪にコーティングをほどこすなどもおすすめの方法となります。 粗相が大変な場合には、おむつをつけてあげてもよいですね。 ただ、長時間つけておくことで、蒸れる・かぶれることも多いため、こまめに交換や洗浄をしてあげ、清潔を保つようにしましょうね。
②サプリメント
抗酸化物質であるビタミン群(ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC)、コエンザイムQ10などの投与や、認知機能改善が期待されるDHAやEPAといった栄養素の補給も推奨されます。 ただ、サプリメントは、薬とは違って、ある程度長期的な服用により効果が出ること、また、劇的な改善は期待されないことに注意が必要です。 取扱商品については、動物病院ごとに異なるため、主治医の先生にご確認くださいね
③食事療法
食事療法も、認知症のケアには重要ですね。 すなわち、抗酸化物質や脳に良いと言われる成分を含む、バランスの整った食事を選択するようにしましょう。 手作り食も良いですが、栄養面やカロリーなどを配慮した療法食が、簡単で確実なケアをほどこすことができます。 療法食の中には、認知機能不全症候群に対する効果が期待されているものもあるため、ぜひ試してみてください。 ただし、肥満やなにかしらの病気で治療中の場合には、それにみあった食事管理が優先となります。 主治医の先生と相談して決めるようにしましょうね。
④薬物療法
認知症の根治的な治療薬はありません。 あくまでも、症状を緩和させる可能性があるということにとどまります。 一般的には、気分を落ち着かせるタイプの薬が処方されることが多く、眠気を引き起こすことが多いです。 効果が出すぎてしまと、常に寝たり、ふらついたりする可能性もあるため、初期用量は低用量として対応します。 また、認知症それぞれの症状(不眠や夜泣きなど)を緩和するための補助的な薬物治療も有用です。
犬の認知症の予防法
犬の認知症自体を予防する方法はありません。 ただ、発症以前から、また発症後においても、遊びやお散歩などで、日々の生活に刺激を加えてあげることは大切です。 ボールやおもちゃなどを用いて一緒に遊ぶことで、「楽しい!」という気持ちになるだけでなく、「自分はまだ動ける・遊べるんだ!」と前向きな気持ちになることができます。 また、「自分は愛されている!」と実感することもでき、飼い主さんとの信頼関係がより強くなることも期待されます。 さらに、朝はしっかり起きて、日の光を浴びさせてあげることも重要ですね。 日光浴は生活のリズムを整えるのみならず、セロトニンというホルモンによって心が穏やかになる、骨が強くなる作用もあります。 散歩をすることで日光浴もできますが、歩くことが難しい場合には、窓際で行ったり、抱っこやカートでおでかけをしてもよいですね。 同時に、ふれあいやブラッシングも行ってあげましょう。 ある程度の圧をかけてあげることで、血流の向上が見られますし、また、しこり等の皮膚トラブルの早期発見もできます。 遊びやブラッシングは毎日やろう!と思うと大変ですので、時間を見つけて、できる範囲で行うようにしましょう。
【まとめ】犬の認知症の原因や症状、治療法や予防法について
犬の認知症は、高齢期に認知機能が緩やかに落ちていき、徘徊や粗相、夜鳴きなどの特徴的な行動障害を呈する症候群のことです。 犬の認知症の原因や病態はいまだ解明されておらず、治療により完治させることはできません。 ただ、環境改善やサポートをしてあげることは重要であり、床を滑らないようにする、角をなくす・部屋を区切るなど整えてあげるようにしましょう。 また、サプリメントや薬、食事管理も重要となります。 認知症のケアは大変なことも多いですので、一人で抱え込まず、獣医師や動物看護師、家族やお友達に相談して、無理なくケアをしてあげるようにしましょう! 参考資料
辻本元,小山秀一,大草潔,中村篤史,犬の治療ガイド2020,EDUWARD Press,p1101-p1104